新感覚のバドミントン漫画!『あかねのハネ』をレビュー

作者・磯谷友紀 あかねのハネ 1巻より
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女性作家が女子主人公のスポ根作品を描いた結果、まったく新しいタイプの主人公が誕生した

どうも、いなかです。

この記事では、作者・磯谷友紀のビックコミックス・ヒバナ『あかねのハネ』について、未読の方向けの紹介・感想をまとめていきます。ネタバレは極力無し(あらすじ程度)としています。

両親の転勤がきっかけで、サッカー少女がなぜかバドミントンをやることに

主人公の深山あかねは、中学時代は女子サッカー部の主力選手。ところが、3年の夏の大会直前に、父親が仕事上、九州・鹿児島から東京に転勤することになってしまいます。

高校ではサッカー部のある高校に、と思うあかねでしたが、受験には失敗。なんとか合格した三ノ宮高校は、運動部は強豪揃いなものの、女子サッカー部はありませんでした。

学校外のクラブチームでも探して入ろうか…そんなことを考えるあかねでしたが、体力測定の時に偶然、女子バドミントン部のコーチの目に留まります。

バドミントンについてはまったくの初心者だったあかねでしたが(経験者に向かって「あの、公園とかでやるやつ~」など、暴言と取られても仕方のないことを言ってしまったりしています)コーチの熱心な誘いもあってバド部に入部。

ただ、三ノ宮高校のバド部は、全国大会にも出場するほどの強豪校。他の一年も、あかね以外は全員が3年以上の経験者という完全なアウェーです。

そんな中で、初心者のあかねがレギュラーを目指していく、という、カテゴリ的にはサクセスストーリーとなります。

あかねは青年漫画ならではの、今までにないタイプの主人公

「あかねのハネ」は、読んでいるとすごく独特のテンポで話が進んでいくように感じるのですが、何度か読み返してやっとその原因がわかりました。

主人公・あかねのキャラクターの独特さです。

やっぱり女性作家が描いているというのが大きいと思うのですが、女子高生がちゃんと女子高生なんですよね。

いやもちろんフィクションの部分が大きいことは理解しています。ただ、その中に入ってくる細かい部分の説得力がやっぱり違うな、と。

作者・磯谷友紀 あかねのハネ 1巻より

例えばこのコマ、あかねがダイビング気味に打ち返したときの反応なんですけど、「ちょっと、ヘディングみたいだった」っていうフレーズが、わたくし的にはものすごいパワーワードだったんです。

あ~なんかすごい女子高生っぽい!って思ってしまいました。

わたくしもいい歳をしたオッサンなので、所詮はそのオッサンが感じる「説得力」です。もしかしたらものすごくフィクションに部分に説得力を感じているのかもしれませんが…。

具体的に言語化するのであれば、『キャラクターとしてのあかねが結構「ふわっとした、感覚的なタイプ」として描かれているのですが、その台詞回しが秀逸』ということになるのでしょうか。

ただ、そのふわっとしている「ただの女子高生」の部分と、アスリートとしての部分がすごくうまく融合していると感じるんですよねえ…。

アスリートとしてのあかねは、もちろんふわっとしているだけではないです。

性格的な打たれ強さ(失敗を苦にしない、ポジティブに捉えられるなど)を持っていますし、緊張やプレッシャーをあまり感じないというか、むしろそれらを自分の力に変えられます。その上、意外に勝負には貪欲な面もある…という、メンタリティとしては天才の部類だと思われます。

作者・磯谷友紀 あかねのハネ 1巻より

イメージトレーニングも非常に精度が高いのですが、どこかふわっとしてます。まあ、それが可愛いんですけどね。

とりあえず、今のところあかねにはあまり必死な感じはしません。どこか抜けている感じがどこかにありますね。練習はちゃんとやっているし、家に帰っても自主トレをやっているのですが…。

いい意味で必死さがないのが、この作品の最大の特徴なのかもしれませんね。

読者が感情移入できるのはむしろ佐羽子の方?

あかねがバド部に興味を持つきっかけになった、鈴木佐羽子というキャラクターがいます。

あかねのクラスメイトでもあるのですが、作中ではあかねと対照的な存在として描かれることが多い彼女。普段は引っ込み思案で声も凄く小さいのに、ラケットを持った途端に豹変するという非常に漫画らしい特徴を持っているのですが、それ以外の部分はとても堅実。

ジュニアチャンピオンという経歴を引っ提げて、憧れのコーチがいる強豪校に満を持して入部というエリートです。

その憧れのコーチから目をかけられているあかねのことは、最初から快く思っていない様子。

とはいえ普通の読者は、あかねよりは佐羽子の方が考え方は近いのではないでしょうか。何というか、あかねの方は一巻の時点ですでに、天才っぽさというか、大物感がものすごく出ていて、まあ放っておいても勝っちゃうんだろうな~という感じなんですよ。

作者・磯谷友紀 あかねのハネ 1巻より

一方で佐羽子の方が、エリートとはいえ心中の呟きなど一般人に近いと思います。

加えて、あかねよりもずっと危うさを持っているように思えますから。

コーチに精神的に依存している部分や、やや神経質で線の細い部分があり、この先どうなるか、という感じですね。エリートとはいえ、先の勝利が約束されているわけではありませんから。何となく、応援したくなってしまいますね。

今後、あかねも佐羽子も壁にぶつかったりするんでしょうが、二人の関係がどうなっていくかは非常に興味深いですね。試合でダブルスを組んだりすることも出てくるのでしょうか。

あかねの勝利にどこまで理由を持たせられるかが鍵

最近では「主人公が初心者、もしくは素人」というスポーツ漫画は本当に減りました。もちろん探せばまだまだあるのですが、主人公がなんらかの形で経験者の場合の方がずっと多いと思います。

理由はいくつかありますが、その中でも特に大きいのは「初心者を活躍させることの難しさ」でしょう。

これは野球やサッカーのようなメジャーなスポーツでは特に顕著なのですが、「初心者が活躍する」というのがどれほど難しいことなのか、読者がすでに知ってしまっているのです。半端な理由では納得してもらえません。

元々の身体能力の高さなど、「才能」の類がこの「理由」とされることが多いのですが、なかなか共感を得られないのが難しいところ。

かといって、ストーリーの展開上、地道な練習をずっと続けてもらうわけにも行きません。最近のせっかちな読者は、主人公の成長をのんびり待ってくれませんから。

そのあたりのさじ加減が非常に難しいのだと思われます。

過去のバド漫画と言えば「スマッシュ!」、現在も連載中の「はねバド!」などがメジャーで、連載期間も長いですが、いずれも主人公は経験者。

はねバドに至っては、主人公がやたら禍々しいオーラを放ちながら、半端な強豪は瞬殺するレベルですからね。ある意味では好対照と言えます。

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「あかねのハネ」では、あかねがもともとサッカーの主力選手だった、という過去を持たせることで、フィジカル面での説得力を持たせています。

ただ、それだけで技術面をほいほい埋められる理由にしてしまっていいのか…という懸念もあります。そこらへん、今後どう捌いていくのかが見どころになってくるんでしょうか。

次巻が楽しみな漫画がまた一つ増えました。多分2巻もレビューします。

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