妹が死んだ後、妹の彼氏と付き合う。「春の呪い」レビュー

小西明日翔 春の呪い1巻より
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後に残された男と女の関係を描く恋愛作品

どうも、いなかです。

この記事では、作・西野明日翔のZERO-SUMコミックス「春の呪い」全1~2巻について、感想をまとめます。未読の方向けのレビューで、ネタバレは序盤のあらすじ程度です。

簡単なあらすじ

主人公・夏美の妹、春は、かつての名家の血筋を目当てにされて、政略的に財閥の三男・冬吾と付き合うことになる。ところが、交際を始めて数年後に春は病死。もともと血筋目当ての交際、今度は夏美が冬吾と付き合い始めることになるが…。

小西明日翔 春の呪い1巻より

全2巻、お話のキレが素晴らしい

かなりテンポがいい作品で、全2巻で完結します。物語の核になるのは、故人の姉妹と交際するという倫理的な部分の折り合いをどうつけるか、という部分。

2話くらいまでで、その時点でのお互いの心情の部分はかなり描かれます。冬吾の方はもともと政略的に婚約させられた相手である春にそこまで興味はなかった。夏美と春の姉妹は、活発で破天荒なところがある姉の夏美、大人しくて控えめな春というイメージ。

冬吾はくそ真面目で、今までずっと親の期待に応え続けてきた(若くて背が高くてイケメンな)三男。次第に自分には無い要素を持つ夏美の方が、自分自身どちらかと言えば興味があったことに気が付きます。ただ、冬吾に姉妹のどちらかを選ぶような発言権はなかった。ただ、これまで親の言う事は聞いてきた冬吾は、まあいいかという感じで春との交際を続けていたんですね。夏美に対しても、そこまではっきりとした好意はなかったから、何が何でもというところでもなかった。

一方の夏美は、特に冬吾という人間に興味があって交際を始めたわけではなかった。彼女が一番大事にしていたのはあくまで妹の春で、春のことを少しでも知りたくて、「春と一緒に行った場所に連れて行く」という約束で、冬吾との交際を始めます。

作・西野明日翔 春の呪い1巻より

だから二人のデートはいつも、春と冬吾がかつて行った場所でした。

やがてデートで行った場所に行きつくしたとき、二人の関係に大きな転換期が訪れます。

作・西野明日翔 春の呪い1巻より

別に交際って、そういう契約めいたものじゃないと思うんですが(笑)まあ冬吾さんクソ真面目なので。夏美もなんかその辺は疑問に思わなかったようです。

ここからの展開が、この作品の見どころになります。これがだいたい1巻の真ん中くらいなので、テンポのよさが伺えます。

どのタイミングで全2巻というのが決まったのかはわかりませんが、ほんとに必要な要素だけを積み重ねてお話を構成していった、という感じですね。そうでないと、なかなか2巻でまとめるというのは難しいのでしょうが。

逆にスッキリしすぎているなと感じる部分もあるので、もう少しだけ、遊びの部分があってもよかったかなとも思います。ただ、そのせいでテンポが悪くなってしまったら意味がないので、この辺のバランスは本当に難しいと思うんですが。

徹底的に表情に拘りが伺える作品

作品を通して印象的なのが、登場人物の表情です。

作・西野明日翔 春の呪い1巻より

夏美は快活な性格ですが、家庭環境が複雑なことや春の死の影響で、ふとしたときに暗い表情を見せることも多いです。三白眼とかぐるぐるおめめとか。

作・西野明日翔 春の呪い1巻より

そういう表情の機微がすごく力を持ってる作品だと感じましたね。特に上のコマのような、夏美の泣きそうな表情に作品への引力を強く感じます。(ほんとは前後のコマと合わせて台詞付きで紹介したかったんですが、いいシーンなのでやめました…)

作者の画力はかなり高いと思います。線画のレベルがかなり高いところで安定していないと、表情の機微を出すのは難しいので。

基本的にクソ真面目同士なので好感が持てる

上の項でもときおり触れましたが、基本的に冬吾はクソ真面目です。実家がガチの金持ちですが、逆にそれをひけらかしたりすることはまったくありませんし、夏美と春の姉妹を下に見るようなこともありません。お金や出世にもそれほど関心がないとまではいいませんが、どちらかと言えば息苦しさを感じているタイプで、本質的にかなりの善人です。ただ、良くも悪くも主体性がないところがあります。

あくまで私の場合なんですけど、根が気の小さい小市民のせいか、真面目にこつこつやっている奴の人生が最終的にいい方向に動き出して欲しいんですよね。

冬吾は「夏美に興味がある自分」に気が付きつつも、春の存命中は不義理は一切なかった。むしろ春の病状が回復すれば、そのまま結婚していたと思います。

ただ、その相手が急逝してしまった…じゃあ、自分はどうすればいいのか。

読んでる方からすると、そういう悩んでいるのを応援してやろうという気持ちになってくるんですよね。「悩みすぎたりしない」のも冬吾のいいところですし。

男が少女漫画を知る場がもっと欲しい

この記事を書いている最中に知りましたが、「このマンガがすごい2017」の女性向けで2位になった作品だったのですね。私が存在を知ったのは書店で平積みされていたのと、kindleでおすすめされたのでなんとなく買ってみたのですが、さすがの面白さでした。しかも全2巻ですぐにでも読める長さ。逆に、なぜこんなに面白い作品に気が付かなかったのか、と後悔さえしましたよ。

少女漫画に対しては、男がアンテナを伸ばすのは相当高いハードルがあります。気まぐれにちょっと立ち読みしてみる、とかまずありえないですから。少女漫画の内容については基本的にはブラックボックスなわけです。じゃあ片っ端から表紙買いするとか、雑誌の時点で知るために雑誌を定期購読するか。そのくらいしないと話題になる前に名作に気が付くのは無理だと思います。

ただ、そういうことをある程度しても損はないのかな、とは思いましたね。それほどの作品でした。よかったらぜひ読んでみてください。

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